ダイオードとは
電流を一方通行へ流し、逆方向へは流さない(整流作用)電子部品です。 抵抗やコンデンサと違い「能動部品」と呼ばれます。 半導体を用いた基本的な部品で、 電気の流れを整えたり、電圧を一定にしたり、検波したりすることができます。
英語 | Diode |
記号 | D |
ダイオードの仕組み
半導体ダイオードとは、p型半導体とn型半導体の2つの半導体を接合したものです。この接合部を「pn接合」と呼ぶことから「pn接合ダイオード」と呼ばれます。一般的にダイオードとはpn接合ダイオードのことを言います。
p形半導体の端子をアノード(A)、n形半導体からの端子をカソード(K)といい、アノードからカソードの方向へ流れる電流のみを通します。
p型半導体、n型半導体などの半導体の基礎についての詳しい内容・説明などは「半導体とは」に記載していますのでこちらを参考にしてください。
ダイオードの空乏層と拡散
下図は左にp型半導体、右にn型半導体を接合しています。この2つの境界を「接合面」といいます。この2つの半導体を接着剤等で付けているわけではなく、4価ケイ素Si原子がこの2つの半導体全体に結晶を作っています。
p型半導体の多数キャリアはホールですので図中の●はホールを表し、n型半導体の多数キャリアは自由電子なので●は自由電子を表します。
拡散
2つの半導体を接合すると、「拡散」という現状が生じます。拡散とは濃度の違う気体や液体を混ぜ合わせたときに、全体に広がって濃度を均一にする現象のことを言います。
例えば、水槽などに水を入れて水に溶いた絵具を数滴たらすと、その絵の具は広がっていき、均一になろうとします。
これと同様に、半導体も接合すると接合面付近では拡散が起こり「空乏層」が発生します。
↓
「空乏層」では、
p型半導体の接合面付近にあるホールがn型半導体側に拡散し自由電子と結合(再結合)して中和されます。これにより、キャリアがなくなります。
n型半導体の接合面付近にある自由電子はp型半導体側に拡散しホールと再結合します。これによりこちらもキャリアがなくなります。
したがって、空乏層内にはキャリアが存在しない状態となります。
拡散電位(電位障壁)
次に、空乏層内部について詳しく見ていきます。
p形半導体は、3価原子であるホウ素Bがありホールが存在します。ホウ素B自身は3価の安定した原子ですが、ホウ素Bのホールと隣のn形半導体から拡散してきた自由電子が再結合して4価になります。ホウ素Bだけを見れば、自由電子をもらった分、負にイオン化した状態になります。
反対の側のn形半導体には、5価原子であるアンチモンSbがあり過剩電子が存在します。アンチモンSb自身は5価の安定したな原子ですが、過剩電子が自由電子となってp形半導体へ拡散して行くので4価になります。アンチモンSbだけを見れば、自由電子がなくなった分、正にイオン化した状態になります。
負にイオン化したホウ素と正にイオン化したアンチモンができた状態ですので、空乏層内は正負の電気を持っており電位差を生じています。
この電位差を「拡散電位」といいます。接合面を境に電位差が生じており、キャリアは移動できないので「電位障壁」とも呼ばれています。
ダイオードのp型側に「+」の電源をつなぐ
ダイオードに直流電源を接続して、その時の動きを見ていきましょう。p型半導体の方には電源の「+」、n型半導体の方には「−」を接続します。
この時、「空乏層と拡散電位」の上図に当てはめると、
・「電位障壁」の「⊖」の電位側には電源の「+」
・「電位障壁」の「⊕」の電位側には電源の「-」
がつながることになります。
このような接続を行うと、ホールは正電荷を持っていますので、電源の「+」とp形半導体のホールの正電荷は反発し接合面を越え、n形半導体内に人ります。すると、電源の「-」と引き合うので、電源の「-」に引かれるように移動します。
n形半導体の自由電子は負電荷を持っていますので、電源の「-」と反発して接合面を越え、p形半導体内に入ります。すると、電源の「+」に引かれるように移動します。
よって、キャリアは移動を行い電源との間で循環を始めるので、電流が流れます。この電流が流れる方向に加えた電圧を「順方向電圧:VF」と呼び、この時の電流を「順方向電流:IF」と呼びます。
ダイオードのp型側に「−」の電源をつなぐ
今度は、p型半導体の方には電源の「−」、n型半導体の方には「+」を接続します。
p形半導体の「ホール」と電源の「−」は互いに引き合うので、ホールは電源の「−」の方向へ移動します。逆に、n形半導体でも電源の「+」と「自由電子」は引き合いますので、自由電子は電源の「+」の方へ引かれていきます。
このことは、電位障壁を高くしてキャリアの移動がしにくい方向に電源を加えていることになります。
従って、電流は流れません。このように、電流が流れない方向に加える電圧のことを「逆方向電圧:VR」といいます。
整流作用
以上のことより、電流は加えた電圧の向きによって流れるか・流れないかが決まります。言い換えれば一方向しか流さないと言えます。
下図で、回路図記号は矢印のような記号となっておりその方向にしか流さないという意味があります。また、p型半導体の方を「アノード」、 n型半導体の方を「カソード」と呼びます。
一番下は実際のダイオードの図ですが、導体の中心からずれた位置にラインが入っています。このラインを「カソードライン」または、「カソードマーク」と呼んでいます。
ダイオードの特性
順方向に電圧を加えると電流を流しますが、その特性はどのようになっているのか。また、逆方向に電圧を加えると電流が流れませんがその特性はどのようになっているのか見ていきましょう。
下図はダイオードの特性図です。順方向電圧を加えた方の特性を「順方向特性」といい、逆方向電圧を加えた方を「逆方向特性」といいます。
順方向特性
順方向電圧を加えると電流が流れますが、これにはある電圧を超える順方向電圧が必要です。
以下のグラフの通り、シリコンダイオードでは0.7[V]以上、ゲルマニウムダイオードでは0.2[V]以上の順方向電圧VFを加えると順方向電流IFが流れます。この電圧は拡散によって発生し電位障壁を超えるために必要な電圧と考えればいいです。
順方向電流IFは順方向電圧VFのわずかな変化に対して大きく流れる特性があるのでダイオードを使用する回路では過電流による破壊をしないように注意する必要があります。
ゲルマニウムダイオードはシリコンダイオードに比べて、順方向電圧変化による順方向電流の増加は緩やかになっています。ですが、シリコンと比較してだけですので、急激に流れるのは変わりありません。
逆方向特性
ダイオードは一方向にしか電流を流すこととができないため、当然電流は流れません。しかしダイオードによっては数[μA]流れるものもあります。
逆方向電圧を大きくしていくと、今まで流れなかった電流がある電圧から突然流れ出します。その時の電圧はほぼ一定に保っています。このことを「降伏現象」または「ブレークダウン」といいます。また、この時の電圧を「降伏電圧」といいます。この現象は次の2つのうちのどちらかが原因で起こります。
・なだれ現象(アバランシェ現象)
接合部に大きな逆方向電圧が掛かり、これによりキャリアが加速されます。そのためキャリアが接合部の結晶原子に次々とぶつかり電子とホールのペアを作るようにして「なだれ」が起こります。
・ツェナー効果(トンネル効果)
不純物の濃度を濃くして特性を変えたダイオードや、なだれ現象を起こした時の逆方向電圧VRより高い電圧を加えた場合に起こります。
不純物濃度が高いために発生する強い電界によってn形半導体中のシリコンの価電子が、本来は流れない空乏層を直接飛び越え、p形半導体に人り込むことで起きます。これをトンネル効果といい、量子学的効果のため応答速度が速いという特徴をもちます。
このツェナー効果(降伏現象)を積極的に利用したダイオードを「ツェナーダイオード」あるいは「定電圧ダイオード」といいます。
ダイオードの種類(記号)・外観・特徴
名称 | 回路図 記号 |
外観 | 特徴 |
一般整流 ダイオード |
一般的なダイオードで安価であり、逆方向電圧VRが高く逆電流IRが小さいという長所がある一方、順方向電圧VFと逆回復時間trrが長い。 | ||
PIN ダイオード |
PN接合ダイオードのPN接合部に「I型半導体」が挟まれたダイオードで順方向電圧を印加すると導電率が変化し可変抵抗のように変動する。 | ||
ツェナー ダイオード |
逆方向電圧を印加するとある電圧で電流が流れる「ツェナー効果」を利用したダイオード。 | ||
可変容量 ダイオード |
逆方向電圧を印加すると起こる「空乏層」を利用したダイオード。電圧の大きさによって接合容量が変化する。 | ||
ショットキーバリア ダイオード |
金属と半導体(n型)を接合させたダイオード。VFが小さい、逆電流IRが大きいなど、一般整流ダイオードとは逆の性質を持つ。 |
ダイオードの構造
PN接合ダイオード
実際のチップはp層は薄く、n層は厚く作られています。また、保護膜を設ける関係上以下の2種類の構造がある。
プレーナー型
現在主流となっている構造。チップが大きくなり拡散工程も複雑となる。
メサ型
一般整流ダイオードはこの構造のものを多く採用している。構造は小さくできるが、逆電流がプレーナー型より大きくなる。メサ型の「メサ」はスペイン語で「台形」の意味。
n-層:
不純物の濃度が低い。逆電圧がかかったときは空乏層が広がりやすい。この層の濃度と厚みによって必要な耐圧を調整する。
n+層:
不純物の濃度が高く電流を流しやすくする。ウェーハの強度確保のために厚みが必要。
絶縁保護膜:
SiO2(二酸化ケイ素)などの絶縁物で保護膜を形成。
ショットキーバリアダイオード
金属ー半導体接合(ショットキー接合)
ある金属とn型半導体を接合して使用。非常にVFが小さく、かつホールを使わないため非常に高速。ただし、逆電流IRが大きいので高耐圧では使用が厳しい。
その他のダイオード
LED(Light Emitting Diode)
日本語では発光ダイオードと呼ばれ、PN接合ダイオードと比べ不純物の濃度が濃くなっています。順方向に電圧を加えると、キャリアが移動して電流が流れ、キャリアが再結合する際の結合エネルギーが光となって発行します。
LEDの光の色の違いは、使用する半導体材料の違いで変わってきます。
赤・赤外線:アルミニウムガリウムヒ素 (AlGaAs)
赤・橙・黄:ガリウムヒ素リン (GaAsP)
赤・黄・緑:リン化ガリウム (GaP)
緑・青:セレン化亜鉛 (ZnSe)
など